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小説を中心にBL本の感想を書くよ

夕映月子「京恋路上ル下ル」

京恋路上ル下ル (ディアプラス文庫)

京恋路上ル下ル (ディアプラス文庫)

 

 京町屋で古書店を営む伊織は、家庭を大切にする年上の男が好みだ。 だから大学生の颯馬に告白されても拒絶する。 己が失った家族の愛に恵まれた颯馬には、真っ当な恋をしてほしいから。けれど颯馬はいけず美人の伊織に焦がれ、追い続ける。 伊織には幸せな恋をしてほしいし、自分がその相手に不足だとは思わないのだ。 交わらぬ恋の道で、ふと大人びてきた颯馬に伊織が気づく時……? 

京の街ではんなり紡がれる恋双紙♡

 

2013年に発売されたこちらが今回電子化されるということで、夕映先生が呟いてくださっていたので出会うことができました…!本当にありがたい…。

 

夕映月子先生 インタビュー 2013/11/05 作家インタビュー|BL情報サイト ちるちる

インタビューにある通り、受けの伊織が本当に魅力的なんですよね…。

 

わたしは元々美人に弱いのですが、伊織はゆったり柔らかい印象の京言葉に、立ち振る舞いは指先まで美しく、人気芸妓だった祖母ゆずりの美貌に、左目の下に泣きぼくろ、そしていけずなんですよ…!たまらない!こんなの好きに決まってるんだ…。

 

攻めの颯馬は、家族や周囲の人からの愛情を受け何不自由なく育ってきたからこその「受け入れられること」に馴れた無自覚の傲慢さがありつつ、それすらも魅力になる健やかで気持ちのいい子。伊織から見れば子どもですが、背伸びや無理をしすぎず自然体で、考え方も真っ当、何より一途に伊織を追い続けるところが最高でした。

 

京恋路上ル下ル

出会い〜付き合うようになるまでのお話。

 

ふたりが初めて出会ったのは、江戸風俗の研究者である里見先生(颯馬のお父さん)の研究室で、伊織が大学生、颯馬が小学生のときなのですが、この出会いのシーンがね、めちゃくちゃいいのです。

この頃からいけず美人の伊織と、実はこの出会いで性に目覚めてしまった颯馬…!もうしょうがない!君は伊織が性癖ど真ん中なんだよね!!!という……。そりゃ再会したらまた好きになっちゃうに決まってるよね…。

 

伊織にしてみても、里見先生を好きだったのは家族を大切にしている人だったからなわけで。年下なんてタイプじゃないと言いつつも、伊織にとっての理想の家庭で愛情豊かに育ってきた颯馬を好ましく思わないわけがないんですよね…!

惹かれ合うに決まってるじゃん!!!

 

わざとプライドを傷付けるようなことを言って遠ざけようとしては悪者になりきれず、のびのび育ってきた颯馬をこんな風に大人にしたかったわけじゃないと心を痛め、それでも追い続ける颯馬からじわじわ本気を知らしめられて、やっと恋心を自覚する伊織が本当にかわいかったです。

 

恋迷路入ル

やりたい盛り・二十歳の颯馬と、犬も食わない痴話喧嘩のお話。

 

グッときたのが、伊織がベッド(本文中では「房中」と書かれていたのでより最高だった)での主導権を握りたいタイプだということ!

騎乗位で快感をコントロールしてセックスを楽しむ、という意味でもいやらしくてめちゃくちゃいいのですが、コントロールできないこと=不測の事態に弱いというのは、不用意に心を動かされたくない=傷付きたくないからなんじゃないかなと思うんです。

「お友達」と割り切ったセックスを楽しむ一方で、好きになるのは家庭を大切にしている人=絶対に自分に靡かない相手なのも、はじめから手に入らないなら失って傷付くことがないからですよね…。

なので、ベッドでも全てを明け渡すことができない臆病な伊織と、もっと愛したい颯馬がちゃんと揉めるお話がだったのが、本当に本当に本当に好きでした…!乱れちゃう伊織、かわいいんだ…。

 

恋路の行方

颯馬の就活と、伊織を捨てた家族のお話。

 

付き合って2年半、ふたりが恋人同士としてめちゃくちゃ馴染んでる…!大学4年生になった颯馬は年上の恋人のお陰かますますいい男だし、伊織はかわいくなってるぞ…!

 

自分が京都から動けない以上、颯馬を縛るようなことは言えず、内心はどこに就職するつもりなのかヤキモキしている伊織と、転勤すらも嫌で、お店から5分の京都市役所に就職しようとしている颯馬。最高じゃないですか???

伊織の気持ちをほぼ正確に感じ取っているのに、「そばにいてほしい」と言わせたい颯馬がまた……。かわいいふたりですよね…。

 

そして、伊織を捨てた家族が現れるも、きっちり支えになる颯馬が本当にかっこよかったです……。

 

いつの頃からか、颯馬は伊織好みのキスばかりするようになった。食べ物や趣味と同じだ。伊織の反応を注意深くうかがって、好きなやり方ばかりを集めて、覚えて。年上の男のような包容力や鷹揚さはないが、その代わり健気なほど一生懸命にすべてを注ぎこんで伊織を甘やかす。

 

颯馬が惜しまず注いできた愛情が伊織を満たし、支えているから、自分を捨てた家族と対峙することができたんですよね…。

気持ちよく片がついたわけではないけれど、想い合うふたりならこの先どんなことが起こっても支え合っていけるんだろうなぁ…。ふたりが出会って、颯馬が伊織を好きになって、伊織が受け入れて自分の気持ちも認めて、ずっと一緒にいて、これからもずっと一緒にいるふたりでよかった…。

素敵なおじさんになった颯馬が、伊織に喜ばれる未来でありますように!

 

そしてわたしは、まんまと京都に行きたくなってしまいました!